【開催レポート】at Will Work主催オンラインセミナー 「人材政策」持続的企業価値を創造する人的資本経営に向けて(前半)
2021年5月28日にat Will Work主催のオンラインセミナー 『「人材政策」持続的企業価値を創造する人的資本経営に向けて』を配信しました。
2021年度は、様々なゲストをお迎えし、隔月でオンラインセミナーを開催いたします。
Vol.1は「人材政策」をテーマに開催。「人材版伊藤レポート」の取りまとめを中心に、人的資本経営の推進に関する政策を担当されている、経済産業省 経済産業政策局 産業人材課 片岸 雅啓 氏をゲストにお迎えし、
・人的資本経営を実行するための鍵は何か。
・ステークホルダーに対する対話をどの様に行っていくか。
についてお話をお伺いしました。
また、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 アソシエイトディレクター 田中 公康 氏と、at Will Work理事の日比谷 尚武が、昨年 経済産業省にて取りまとめられた「人材版伊藤レポート」をはじめ、昨今の動向も交えつつ、今後の展望についてトークセッションを行いました。セミナーの内容を前半・後半に分けてお送りします。
▼参考:2020年9月30日 経済産業省公表
持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~人材版伊藤レポート~
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/kigyo_kachi_kojo/20200930_report.html
▼本セミナーのアーカイブ動画はこちら
https://youtu.be/Ws05UlNeIRQ
経済産業省が発表した「人材版伊藤レポート」について 〜持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究〜
経済産業省 経済産業政策局 産業人材課 片岸 雅啓 氏
片岸氏は、現在経済産業省 経済産業政策局 産業人材課で人的資本経営やフリーランスの新しい働き方についての分野をご担当をされています。
今回は経済産業省が発表した「人材版伊藤レポート」の内容を中心に持続的な企業価値の向上と人的資本についてお話いただきました。
近年、グローバル化、デジタル化、少子高齢化など企業を取り巻く環境は加速化しています。
様々な環境変化の要因がある中で、経営戦略だけを変えても対応できるとは限りません。
時代の変化に対応した経営戦略を行うため、取締役や投資家はこれからの経営戦略において「人」を重視し始めているといいます。
人材戦略に着目する企業が増える一方で、人材戦略と経営戦略を紐づけられていない企業の課題が浮き彫りに。片岸氏は現在の日本の人事部の捉えられ方についてこう語ります。
「人は価値創造の源泉であるはずなのに、日本の人事部は管理部門としか見られていません。価値創造部門としての人事部のポテンシャルをもっと発揮できるはずなのではないかと議論が進んできました。」
「人材版伊藤レポート」では、人材マネジメントを人的資本の活用・価値創造の過程と捉え、企業の価値を高めるための方向性を示しました。
「人材マネジメントを、人材を管理する役割と置くのではなく、人的資本の価値成長に重点を置く」「経営と切り離されていた人事施策を人材戦略として経営戦略と密接に連動させて企業価値を向上させていく」など具体的な変革の方向性が示されました。
また、従業員の雇用においては、企業が人材を囲い込むのではなく、個人と企業が選び選ばれる関係であることがお互いにとってWin-Winであるという方向性が示されました。
これらの方向性を踏まえた上で、持続的な企業価値の向上を行うには、ステークホルダー間の協創も必要だと片岸氏は述べます。
「経営陣あるいは人事部が人材戦略を社内で実行するだけではなく、社内外のステークホルダーへ発信していくことも重要です。取締役会ではそれらをモニタリングし活発に議論する、従業員は自ら自律的なキャリア選定をする、投資家はそういった企業の人材戦略を考慮して投資先を選定する。それらをしっかりと行っていくことで、
・個人の自律的な成長
・時代の変化に対応した人材の獲得と変化に合わせた経営の実行
に結びつき、持続的な企業価値向上の実現をすることができると考えています。」
しかし、無形資産である「人材」への評価や投資効果の見極めに苦労している企業は多く、「PLのように数字に見えて評価ができるものではない」「取締役の中に人材に関して精通した人がいない」などの理由から実のある議論がされてこなかったのが現状です。
そのため、経営戦略の実現を担保する人材戦略の意義を明確化するべく、人材戦略における重要アジェンダや足下とのギャップを埋める取組を数字で表せない評価項目も含めてストーリーとして語っていく必要があると片岸氏は述べます。
「まず、なぜその会社が存在するかという存在意義(パーパス)をはっきりさせることが重要です。それにより、従業員が自分の仕事が社会に与える意義に納得感を得ることができます。
そして、パーパスを企業の競争優位として置き、経営戦略を組み立て、人材戦略に連動させていきます。
次に、その理想と現実の差分は今どれくらいなのかを認識します。その上で施策を行っていくのですが、定着には発信と対話も重要で、トップの責任者が責任ある言葉で社内外に語っていくことが重要です。」
日本でも人材戦略に成功している企業の事例が少しずつ増えていますが、人材戦略は会社によって千差万別であるため、成功事例を真似してもすべての会社がうまくいくわけではありません。
「人材版伊藤レポート」では、多くの会社で人材戦略の成功確度を高めるため、人材戦略に共通する視点・要素を分析し、まとめています。
人材戦略を成功へ導くための共通要素は5つ。
①動的な人材ポートフォリオ
時代に合わせて経営戦略が変化する中で、それに紐づく流動的な人材の確保や育成ができていない企業が多いというのが現状です。
目指すべきビジネスモデルや経営戦略の実現に向けて、最適な人材ポートフォリオが柔軟に構築できているかが重要になっていきます。
②知・経験のダイバーシティ&インクルージョン
性別・国籍・経験など多様な人材を数値として増やすよりも、そういった価値観の多様性をいかに取り入れられるかということが重要です。そして企業は、個々の多様性が対話やイノベーション、事業のアウトカムに繋がる環境を作ることが必要になります。
要素③リスキル学び直し
世界のCEOは、必要なスキルや知識を持つ人の定着に課題感をもっている一方で、日本では従業員の学習意欲を高めることに課題を感じています。
世界に対して学び直しの意識が低い日本では、企業が学び直しの機会を提供するのはもちろんのこと、従業員の学びたい意欲に対して支援をし、個人の能力を高めていくことが重要です。
また、学び直しを促すためにも、「なぜリスキルが必要なのか」「学び直しをすることで何を目指すのか」についてパーパスと紐づけて提示することが重要です。
要素④従業員エンゲージメント
「企業のパーパスがどれだけ従業員に伝わっているのか」「パーパスに対して従業員のやりたいことがアラインしているのか」などは従業員の自発的な貢献意欲の発生を大きく左右します。
パーパスを通した形で、従業員と密接なコミュニケーションを取っていくことが大切です。
要素⑤柔軟な働き方
予期せぬ変化が起こる時代の中で、様々な人が安心して働ける組織づくりとコミュニケーションが求められています。コロナ禍によるテレワークへの切り替えでは、多くの人が評価とコミュニケーションに不安を抱えています。時間や場所に囚われず、尚且つ、安心して働ける環境を提供することが重要です。特にエッセンシャルワーカーへの配慮も必須です。
これらの5つの要素を踏まえ、経営戦略と人材戦略を連動させていくことが持続的な企業価値創造に繋がると片岸氏は語ります。
「今ある人材を活かした人材戦略を行い、それを元に経営戦略と連動させることができれば持続的な企業価値の創造につなげられるのではないかと思っています。」
「人材版伊藤レポート」のお話を中心に、人材戦略と経営戦略の連動に向けた具体的な企業の方向性をお話いただきました。
後半では登壇者3名のパネルディスカッションの様子をお届けします!
後半の内容はこちらから。